2011年1月13日木曜日

幼児の外国語習得についての専門家の見解

久々に子どものコミュニケーション能力の発達に関する専門書を読んでみた。

それはこの本。どちらかといえば専門家向けの本だが、平易な概説書なのでレベルとしては大学の教科書といったところだろうか。分野は発達心理学になる。

0歳~5歳児までのコミュニケーションスキルの発達と診断―子ども・親・専門家をつなぐ0歳~5歳児までのコミュニケーションスキルの発達と診断―子ども・親・専門家をつなぐ



0歳から5歳までのコミュニケーション(理解力や言語、身振り手振り)の特徴を1年ごとに区切って説明してくれているなかなかにためになる本なのだが、とくに関心があるのは5章「幼児期における複数言語の習得」のところだ。

全部を紹介するのは難しいので、まずは全体の主張についてだが、2言語を獲得することによるデメリットについての記述はいっさいなし。主に、少数民族が多数派の言語を獲得する文脈でのバイリンガリズムについての研究例が多いのだが、否定的な結果は報告されていない。特に「誕生後すぐに2言語を習得し始めたバイリンガルの子どもは、認知能力、周辺世界に関する知識、コミュニケーション能力において、同年代のモノリンガルの子どもと比較しても根本的な違いはない」(p.214)そうだ。

これは、たとえばアメリカで言えば、家庭の言語が少数言語(移民の言語)、社会の言語が多数言語(英語)の場合での、英語での能力について話していると考えられる。日本での親子英語で考えると、すくなくとも日本語に関しては、家庭で少数言語(英語)をやっていても、日本語能力で根本的に差がつく、ということはない、ということだ。

また、3歳ぐらいまでに習得する最低限の基本的な対人関係能力(BICS)と、就学後身につけていく認知的学業上必要な能力(CALP)の区別をしている。前者は親子英語で普通に身につくのだが、後者を「ふたつの言語で伸ばすためには、第1言語と第2言語で絶えず適切なインプットが必要である(p.215)」とのこと。

また、「モノリンガルよりもバイリンガルのほうが柔軟な認知能力をもち、言語に対する感覚が優れていると一般に考えられている」というちょっと曖昧な表現もあった(p.215)。

とはいえ、バイリンガルである、というのは非常に複雑な要因が絡み合っているので、単純にバイリンガルだからどう、と結論づけるのは正しくないと著者は考えている。ただし、早くから言語というものについてその形式と意味をわけて考える必要があるため(Appleとリンゴが同じものを指す、とか)、「言語に対する客観力の発達に貢献している」ということはありそうだ。

他に興味深い点をいくつか。

「世界の約3分の2は2カ国語以上話せる」。主にアメリカの研究者に向けて書かれた本なので、これを強調している。むしろ例外はアメリカ・イギリスという英語圏のモノリンガル文化のほうだ、とのことだ。日本もモノリンガルの国なので、ともすれば2つの言語を子どもに教えると子どもが『混乱する』という主張がなされるが、世界的に目を広げると根拠がない。

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「母語における十分なインプットが得られないまま、母語がそれ以外の言語に取って代わられるような場合、母語喪失がおこる。このような現象を」「排除的バイリンガリズム(subtractive bilingualism)とよんでいる。」(p.203)という記述にも要注意。

これを親子英語に当てはめると、家庭と英語プリスクールで英語オンリーでやってきたのに、突然小学校に入ったら日本語に切り替えて、自宅での英語利用も止めてしまった、というような場合だ(こんな極端なケースはあり得ないが)。

その場合、「排除的バイリンガリズムは、認知や言語能力にとって悲劇的な結果をもたらすことが多く、とくに子どもの認知的学業上必要な言語能力の伸張に影響を与える。」これは、よく言われている「セミリンガル」状態を指している。

第2言語(学校での言語)の獲得のために何が重要か、ということに関して、「家庭で少数派言語が適切なレベルで維持」されることだというのがおもしろい。これは、特に移民などの場合、突然言語を切り替えるのではなく、今までメインで使っていた言語を自宅で十分に小学校以降も伸ばしてやり、思考能力の発達を助けてやるほうが、むしろ学校での新しい言語の習得にもプラスになる、ということなのだろう。

うちの場合、小学校での学習を考えた上でも、自宅での英語での取り組みが不可欠、ということになる。

終始強調されていたのが両方の言語での「適切なインプットが絶えず必要であること」

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これまで、2カ国語習得に関するの専門書を何冊か読んできたが、基本的に欧米で書かれた専門書の場合、ここに書かれていることとほぼ同じようなことが書かれている。

以前何回もこの手を記事を書いてきたが、ほとんどのことはさまざまな親子英語ブログで語り尽くされていて、さほど新しい情報はなかったと思う。

とはいえ、親子英語を実践していると、いろいろな方面から「それでいいのか」と否定されることがあるので、こうやってときどき再確認するのは悪いことではない。


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2 件のコメント:

Nory さんのコメント...

排除的バイリンガリズムって言葉がとても気になりました。
取って代われるというのがどの程度かにもよりますが、うちは母語でない英語の方が優位なので危険区域に入ってるかもしれないですね^^;ただ現在母語喪失というより母語発達中なので少しはましかな。

「適切なインプットが絶えず必要であること」って大事だと思うけど難しいですね。誰かがあなたはコレぐらいねって教えてくれたらいいんですが。。。少しずつ微調節しながらどれくらいが適切か自分で見極めるしかないですね。

最近本を読む暇がないのでこういう情報は助かります!ありがとうございます。

なおぱぱ さんのコメント...

>Noryさん

途中で言語をすぱっと切り替えてしまうと、今まで積み重ねてきた発達が中断してしまう、という意味で、「排除」なのだと思います。

インプットの適切な量というのは、なかなかに量で示せないのでしょうね。同じかけ流しでも、注意して聞いているか、それともBGMなのかで効果が違います。「1日3時間」とか言うのは簡単ですが、質がわからないので、意味がないのでしょう。